中華 状元への道

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2019年 01月 14日

そして嵐は過ぎ去ったのか?

中国映画「迫り来る嵐」(原題:暴雪将至)

私の好みの映画、時代のうねりに翻弄される系です。そこに女性連続殺人のサスペンス要素が加わる。ポスター見るとサスペンス推しかもしれないですが私にとっては、この時期の中国を知ってるだけに、この不連続な変化のスピード、暗く大きいギャップもしくは見えそうで見えない機微が気になります。同じ時代背景の「薄氷の殺人」もよかったな。
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物語は1997年から2008年を描く。香港返還から北京五輪まで。中国の経済社会環境が大きくふれた時代です。舞台は地上の製鉄所。この時期に鉄鋼に関わりつつ頻繁に中国を訪問していましたので90年代末のこのどんよりした空気感を覚えています。というか工場の記憶しかない。世界経済に巻き込まれて成長しつつあるもののそれまでの社会主義システムの軋みが大きくなっているころの違和感。江沢民政権、大企業が大リストラに進んだ下岗の時代の暗さ。企業が大きくなり出して経営者や政府高官が豊かに見えるようになる一方で工員たちは食堂に群がり白飯をかき込んでいた。

主人公余国伟は製鉄所の警備員。普段所内の風紀を守るべく、窃盗犯などを見つけ出す。その正義感と実績で有能だとされている。仲間うちでも慕われ、組織からも模範的と評価される。公営大企業が社会主義の中で作ったシステムで計画に則って目標を達成する。模範職員は表彰され栄誉を与えられる。その中で一歩一歩進んでいる。でも彼が身を置く大システムは非効率となり、機能しなくなっている。そんな変化を彼も人々も認めたくないが感じざるを得ない。社会不安から犯罪が頻発する。かつて成長を支えた製鉄所ですらしかり。そんな折りに女性連続殺人が発生する。余は工場外部で発生した事件にもかかわらず自ら捜査に乗り出す。優秀な彼は仲間からもてはやされ彼の実力なら公安にでも入れると賞賛されるが、あくまで彼は今まで通り組織内で日々の仕事を全うすると嘯く。ただその実、鄧小平改革開放以来の、先に金持ちになって行った世間も彼には見えている。しかもその年、世界一の金持ち地区香港が体制に組み込まれた。そんな時代を背景に、彼も捜査に貢献して、あわよくば公安に抜擢され自らも飛躍したいのだろう、次第に度を超して事件にのめり込んで行く。

 街の繁華街は小香港という。香港とは似ても似つかないしょぼい街並み。色街で出会った女友達はリアル香港に出て美容室を開くという夢がある。豊かな世界がおぼろげながら見えてきた。手を伸ばせば届きそうな感覚を与える。製鉄所には四方にレールが敷かれ原料が運び込まれる。世界とつながっている。でも自分たちは土地と体制に縛られている。と思い込んでいる。外に出たい。空間的にも組織的にも。でも思い切れない。過去の延長に少しの逸脱を加えて変わろうとする。殺人事件の犯人を挙げれば、なにかを変えられる。そのうちに犯人らしき影が女友達のそばにちらつく。

中国が大国になった今振り返れば、成長へのテイクオフの一過程であったと思えるが、そこにいる大衆からすると明日も見えない不安の極致だ。意思を持てば持つほど不安が募る。この映画、ずっと雨が降っている。冷たいしのつく雨。いつ止むかわからない。どこが前線かもわからない。どのくらい大きな雲なのか?「迫り来る嵐」暴雪将至(暴雪がまもなく至る)。最後の場面は2008年。世界ではオリンピックが賞賛された年。10年間の経済発展とはなんだったのか?暗示的。

以上


by zhuangyuan | 2019-01-14 19:44 | 中国関連DVD、本 | Comments(0)