中華 状元への道

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2018年 08月 12日

Adiosと言わないで

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映画「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ Adios」

多幸感に包まれて見終えた。

1997年CD発売と1999年の前作映画公開によりキューバで眠っていた彼ら往年の名プレーヤーは世界に再発見されスターになった。

CDは売れに売れ、世界に呼ばれて公演する。人気に戸惑いメンバー紅一点オマーラがつぶやく、

「なぜ今、この音楽がみんなを喜ばせるの?この曲の苦しみの背景は理解されているの?」

歌をあきらめ、というより幻滅して捨て、声をかけられた時には靴磨きをしていたというイブラヒム・フェレールも訝しむ “Ahora” なぜ今になって?

本作は「発見」以前の彼らの波乱の人生と、さらにはキューバという国の成り立ち、音楽の来し方を描いてくれる。音楽が彼らを作り、苦しみの中の彼らを支え、そして輝かせた。悲しい歌詞を含んだ静かな調べでもキューバのリズムに乗せると優しい曲になるのはなぜだろう?

私がブエナビスタに触れたのはリアルタイムではない。2015年アメリカとの国交回復が決まり、古き良きキューバが変わるかもしれないという機会に旅行した。その前にキューバと関わるものになるべく触れようと映画もずいぶん観た。ブエナビスタには胸を打たれてCDはほぼ毎日聴いた。キューバという国の成り立ちに関しても本を漁った。

キューバという国は、というか島はコロンブスによる「発見」後、スペインの植民地になる。ヨーロッパから持ち込まれた疫病と重労働で先住民は全滅し、今住んでいる大多数はアフリカ由来奴隷か、ヨーロッパ植民者の子孫か、その混血だ。つまり全部外来。ちなみにキューバ革命の英雄チェゲバラはアルゼンチン人だが、外から来たとしても全く問題はないとカストロも言っている。さらにいうと島の植物も外来種ばかりだという。植民時代のプランテーションの影響で原生植物は消えた。

つまりキューバという国は外から来たものがミックスしてできている。音楽もしかり。アフリカ由来のリズムとヨーロッパ音楽が溶け合った。つまり奴隷たちも音楽に支えられて生きてきた。映画によるとそのキューバ独特の音楽が最盛期を迎えるのは1950年代というから皮肉なものだ。スペインから独立を果たしたあとはアメリカ保護下に入る。禁酒法の時代にはアメリカマフィアはこぞって裏庭キューバを拠点とし酒を作った。戦後はバチスタがアメリカ保護のもと独裁者となりカジノとマフィアが栄える。そこで連日連夜音楽が演奏された。享楽の果実は民衆には届かず民は疲弊しキューバ革命に至る。その後はキューバ危機やら経済封鎖やら。

外来のもので成り立っているキューバは封鎖されたらたまらない。そもそも何もない島だから。冷戦時代はソ連のサポートを受けたが崩壊後は困窮に陥いる。華やかなステージは少なくなり、西側世界とは断絶し忘れられる。でも街には音楽が残ってた。ソ連共産党員もキューバに来て驚いたと本で読んだ。自分たちは極寒の地で悲壮な思いで革命した。カストロたちは歌って踊って政権取ったって。

アバナ(Habana)に行って驚いたのはやっぱり音楽。誇張ではなしに街じゅう音楽が溢れてる。食堂やらバールでもどこでも軽快なリズムと歌声が聴こえる。遠くで拍子木のように刻む音に吸い寄せられて打楽器を買っちゃったこともある。同じようにはできないけれど。
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そしてついにライ・クーダーがキューバに行って再発見するのです。それが巡り巡ってグラミー賞取ってついにはアメリカカーネギーホールでライブをする。

スタジオ入り初日のに靴墨つけてたというイブラヒム・フェレールがライブを重ねるごとに生気を取り戻して行く映像はが神がかっているとしか言いようがない。

アルバムジャケットに写るのはスタジオ入り2日目のイブラヒム・フェレールだという。2日目にすでに見違えるようにビシっと決めてきた。
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この映画でお気に入りのシーンは彼が真っ赤なスーツを仕立てるところ。赤いの作りたいというイブラヒムに、「はいどうぞ」仕立て屋のお兄さんが生地を出すところ。赤って普通に売ってるんだね。

そのイブラヒムフェレールもすでに他界したのですが、人々の中には音楽とともに生気がみなぎった歌声で存在しつづける。ブエナビスタのメンバーたちも残り少なくなって来ているがAdios(さよなら)なんて言う必要ないよ。Hasta la vista(またね)でいいだろう。

以上

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by zhuangyuan | 2018-08-12 07:44 | 文化、歴史 | Comments(0)
2018年 08月 05日

フランスサッカー 恥辱から栄光へ

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ロシアワールドカップでのフランス代表Les Bleus 優勝の興奮が冷めやらぬ今日この頃、いや日本ではもう甲子園やらオータニさーんに関心が移ってるかも知れない。でもワールドカップ優勝ってのはその国にとっては歴史的大事ゆえ今後何年もいろんな影響を及ぼす。フランスは20年ぶりにエトワール(étoile 星)をもう一個追加したのですが、少し前2010年南アフリカ大会ではどん底にいた。フランススポーツ史上最大の汚点と呼ばれる事件が起きたのだ。と言いつつ私が知ったのは今大会中にネット見ててのこと。

 興味をそそられたのは98年大会の栄光から僅かの時を経てどうして崩壊したのか?そこから這い上がりトップに立つまでに何を修正したのか?特に知りたかったは民族の融合のこと。98年は国家の名の下に融合したBlack Blanc Buer(黒人 白人 アラブ人)が勝利を掴んだ。そしてチームは国の統合の象徴になった。でもすぐに幻想だったと言われる。その後どん底に落ちて、今回はチャンピオン。でもアフリカの優勝と言われた。この間に何があったのか?
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«Le livre noir des bleus, Chronique d’un désastre annoncé »
邦題は「レ・ブルー黒書 フランス代表はなぜ崩壊したのか」
直訳 「フランス代表黒書 予言された破綻の記録」

フランス代表はユニフォームが青いことからレ・ブルーと呼ばれる。知らない人には副題なしではなんのことやらわからない。

2010年南アフリカ大会グループリーグ。ウルグアイに引き分け、メキシコに負けたあと開催国南アフリカ戦を迎える前に事件は起きた。南アフリカ戦で4-0以上で勝たないと決勝トーナメントに行けないという崖っぷち場面だった。事件の原因はメキシコ戦にあった。ハーフタイムにロッカールームで選手が監督に暴言を吐いた。内輪揉め。ただこの閉鎖空間の話が外に漏れた。翌日のスポーツ紙の一面を飾ったのだ。協会は直ちに批判したアネルカ選手の追放帰国を決定した。選手たちは憤慨する。仲間を追放か?誰が漏らしたのだ?チームに不協和音が鳴り出した。

 そしてつぎの南ア戦を2日後に控えた公開練習日を迎える。その日は朝から生放送が入っていた。フランスにとってフットボールは一大事。ましてや優勝経験のあるナショナルチームのこととなれば国民の大きな関心事。そんななか代表チームの練習ボイコットは起こった。勝利が至上命題であったチームが移動バスから出てこない。全員練習ボイコット。国民の目の前で。理由はアネルカ追放に抗議すること。ちなみに彼が放った言葉はあきれるほどレベルが低い。

「オカマでも掘ってもらえ、うす汚ねえ売女の息子め!」
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それを載せる新聞もアホすぎる。

 本書はこの崩壊に至る歴史の因果や、チームをサポートするべき協会、OB、国家、政治家、サポーター、メディアのここへ至る混乱とほころび、さらには選手一人一人の因縁を解き明かしてゆく。筆者は代表取材歴20数年のスポーツ紙記者。ともかく熱い熱い筆致でひつこく細かく因縁の糸を解いてゆく。フランス人のフットボールへの熱量の大きさを思い知る。

 監督ドメネクは、長期政権で成績が上がらないにもかかわらず協会内の政治バランスの結果残留しチームでは求心力を失っていた。代表メンバーも強力なリーダー不在でキャプテン、エヴラもまとめられない。結束力はなくなり分解直前であったとう。象徴的なのはスーパースターアンリ。W杯4回出場、歴代得点王だがピークを過ぎていた。大会前に監督は引導を渡しに行ったが逆に説得されてアンリを再度選んでしまう。かつてのキャプテンは控えに回り、特別な地位は守りつつ、チームのことより自分優先。フランス語で代表監督はsélectionneur という。選ぶ人。その最高責任者が優柔不断な決め方をした。しかもその監督のポジションは大会後に交代することが決まっていた。求心力はもうない。

 そもそも長期になった理由は協会内のバランス。98年優勝メンバーが指導者年代になっていた。でも旧世代の嫉妬から98年組が中心になるのを妨害されていたそうだ。例えば82年大会で活躍したプラティニなんかが保守勢力。ロシア大会の監督デシャンは2008にも候補に挙がっていた。優勝したらしたでやっかみの対象になる。

 手綱を引けない監督のもとチームは独りよがりの集まりとなる。著者曰く、最高のプロ集団であるべき彼らのサッカーは校庭レクリエーションになってしまったという。

では民族間の対立はあったのか?
著者は断言する。

「人種間の融合がうまくいかなかっただの、宗教の違いだの、世代間問題だなどと言う他の読み筋は、それを利用したい者達の不健全な“エセ議論”に過ぎない」

「ムスリムがパンツ姿でシャワーを浴びようが、誰も困惑などしていないし、せいぜいハラル肉を食事に追加する程度で、それ以上の問題なら起きはしない。ジダンが、フランス代表に来るたびに特製パスタを作ってもらっていたのと、どれほどの違いがあるだろうか?」

「フランス代表の抱える問題は、ナショナルアイデンティティー問題などより、はるかにナショナルインテリジェンス問題だったのだ」

要はおバカだと言いたいのだ。

フランスは多民族社会であり特に旧植民地からの移民は数多くいる。アルジェリアなど北アフリカからはアラブ系、例えばジダン。サブサハラのアフリカからは黒人が来る。例えばティガナ。カリブからも黒人がやってくる。アンリやチュラム。彼らはもちろんフランス人。フランス語を流暢に話す。でも本書にもあるようにやっかみもある。

「黒人やマグレブ人が多すぎてフランスのような気がしない」

 でもフランスでは国として出身地域別に人口統計を取らないそうだ。出身地域がどこであろうとトリコロールのもと団結する。これが国の理念。

 著者も事件について語るとき、選手個人の容姿つまり肌の色について触れずに記述している。それは誰もが知る代表チームのことゆえフランスでは自明のことだからか、記述すると差別を助長することになるからか。私はそこに興味を持ちつつ本書を読み進めたが、キャプテン、エヴラが黒人であるのを知ったのはずいぶん終盤になってからだった。私が人種問題に興味を持ったのももしかしたら偏見付きの野次馬根性的なものに過ぎず、フランスフットボールにおいての融合はその世界の中にいる人間にとっては意識すらしないほどに進んでいるのではないかと夢想してみる。

 フランスは優勝した。チームとしてまとまった黒人の活躍が賞賛された。エムバッペやカンテはスーパーヒーローだ。ドイツは負けた。エジルは自らの出自への協会の差別があるといい代表をやめた。

著者も言う
「美しき一大叙事詩に向かっていくチームと壁に激突していくチームの違いは、フットボールの世界ではあまりに微妙だ」

 最高レベルの現場ではディテールの違いが大きな差を生んでしまう。最高のインテリジェンスがコレクティブに力を発揮すれば勝てる。しかし細かなすれ違いが失敗につながり敗北を招く、敗北が問題をさらに大きくするデフレスパイラル。

勝利では回転が逆になる。
フランスの今後のさらなる活躍を期待する。

以上





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by zhuangyuan | 2018-08-05 10:15 | 時事 | Comments(0)