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2019年 08月 24日

映画「ムアラフ 改心」ヤスミンは世界を救う

「ムアラフ 改心」

ヤスミン・アフマド監督作品

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彼女の作品はどれも素晴らしい。特に言葉と文化のごちゃ混ぜ感がツボにはまる。


ムアラフ Muallaf という言葉はイスラム教に改宗した人を指すという。昨今イスラムというと過激なイメージがあり、鑑賞を敬遠する向きもあるかも知れないがこの作品はそれとま反対の許しと寛容の物語だ。


ムスリムであるアニ(Rohani)とアナ(Rohana)の姉妹は家出をして知人の空き家で暮らしている。姉は暮らしを支えるためパブでバイトしてる。ムスリムなのに。妹はクリスチャンの学校に通う。ムスリムなのに。


妹は事あるごとにコーランの警句の番号を唱える。姉のバイトも常に心配の種だ。


その少女ながらに揺るがない真摯な態度に違和感を覚える教師もいる。いつしか度を越して体罰をするクリスチャンスクールなのに。


そこの青年教師は故郷の母親の勧めを常にぞんざいに断り教会に行かない。クリスチャンスクールの先生なのに。


パブの先輩ホステスは人気のあるアニを妬み意地悪する。アニはお酒を飲まないし、客にお酒を控えさせてるとボスにチクる。しかし肝心な時にはアニを守ってくれる。


マレーシアは多民族国家。マレー人中国人タミル人など。そこに金持ち国家シンガポールが絡んでくる。映画でも姉妹はマレー人、体罰教師はインド人、パブの先輩と青年教師はおそらく中国系だ。姉妹の亡くなった母親はシンガポールで大学教授だった。ムスリムでマレー人の夫にはインテリ女性は気に入らないようだ。

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マレーシアは宗教も多様である。ムスリムだけじゃない。クリスチャン、ヒンドゥー、仏教、道教。人はそれぞれ宗教の規範や民族の文化を身につけて暮らしてる。グループになると時には相容れずに争う事もある。ただ個人に戻るとそのグループの規範を外れる事もある。規範を守る側は時に正義に身を縛られてはみ出しものを締め付ける。縛られる側は心が折れることもある。それぞれが葛藤と鬱屈を抱えつつ多文化社会で生きている。規律だったり信仰心だったり男女の役割だったり、酒だったり。しかも資本主義競争社会の中ではそれがデフォルメされる。映画でもその軋轢がしばしば暴力として鮮烈に表出する。弱者が煽りを受ける。この姉妹もしかり。でもこの姉妹は常に許すのだ。さらには他の弱者への愛を与える。宗教的寛容と慈愛。それは宗教を超えている。


妹はある意味、アダルトチルドレン的といえるかもしれない。幼い頃から家族の争いを見てきたせいだろう、常にコーランの警句が思い浮かぶ。しかし番号を唱えるだけなのだ。言葉は受け入れる準備のない時には時にtoo muchとなる。アラビア語で唱えないのもある種の曖昧性を残したいから。つまり原理主義には陥らないため。


この真面目すぎる聖女のような妹とちょっといい加減でユーモラスな姉がセットになって物語の広がりが出ている。宗教的慈愛も杓子定規でなく曖昧性と寛容さがあってはじめて多文化がともに生きて行けるのだ。


ヤスミン監督の映画を世界じゅうで観れば平和な世の中になるのに。でも問題はそのご当地マレーシアですら相変わらず民族や党派がゴタゴタしてる。出張でマレーシアを訪れてヤスミンの話を振ってみても反応してくれる人は少ないのが実情だ。彼女の映画はある種ファンタジーなのかもしれない。でも観たものには必ず影響を与えることができるはずだ。

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by zhuangyuan | 2019-08-24 21:03 | 文化、歴史


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