2006年 08月 06日

歴史の奔流 「温故 一九四二」

上海書城という記事の中で触れた「温故 一九四二」(刘震云)を読み終わりました。
短編集の中の一編なので短いものですのですぐ読めました。
短い中に中国の歴史と矛盾が詰まっている濃密な内容でした。

中国語の本はまだ10冊も読んでいませんがどれもこれも内容が濃くて
心に響くものばかりです。私が思うに外国語の本を読むときは、さらっと流して読むわけにはいかず一字一句逃さずに、
またわからないところは何度も繰り返し読むので
母国語の本を読むより、深い理解ができるのではないかと感じています。

以前の記事の中で内容について
国民党が見捨てた飢餓を日本軍が救ったことを描いた「小説」と書きましたが
小説でなく、ノンフィクションでした。

なぜ不倶戴天の敵、日本軍の善行を現代中国で描くことができたのか?と疑問でしたが
この本を読んで納得できました。

日本軍が飢餓を救ったことは触れられていますが、それは主題ではなく
主題はもっと壮大で荘厳なもの、歴史の大きな流れの中で、民衆がどう翻弄され
統治者がどう行動するかを描いたものです。
これは単に日中戦争時の一時代を描いたものでなく、中国悠久の歴史の中で幾度も
繰り返されてきた悲劇であり現実であり、なお今日の矛盾にも通ずるものがある。

1942年に河南省で大干害があり500万人が被害に会い、300万人が餓死した。
灾民吃草根树皮,饿殍遍野。妇女售价累跌至过去的十分之一,
壮丁售价也跌了三分之一。寥寥中原,赤地千里,河南饿死三百万人之多。

被災者は草や根、樹皮を食べ、餓死した死体が散乱した。
婦女の売値が過去の10分の一に値下がりし、成年男子の価格も3分の一に下落した。
寂寥とした中原は、乾いた赤土が果てしなく続き、河南で300万人強が餓死した。


時は折りしも第二次世界大戦の最中、中国は国民党委員長蒋介石が統治していた。
当时中国国内形势,国民党、共产党、日军、美国人、英国人、
东南亚战场、国内正面战场、陕甘宁边区,政治环境错综复杂,如一盆杂拌粥相互搅和,
摆在国家最高元首蒋介石委员长的桌前。别说是委员长,换任何一个人,
处在那样的位置,三百万人肯定不是他首先考虑的问题。

当時の中国国内情勢は、国民党、共産党、日本軍、米国人、英国人、
東南アジアの戦場、国内の戦争、陕甘宁地区、政治環境は錯綜して複雑で、
御椀の中で粥が掻き混ぜられるように、国家元首蒋介石委員長のテーブルの前に
並んでいた。委員長でなくとも、他の誰であっても、そうした地位にいる人にとって
300万人の問題は確かに優先的に考える問題ではなかった。


中国の大物政治家にとって歴史的観点から見るならば、
たった300万ぽっち餓死したところでたいした問題ではない。
それより世界に伍して中国を生き延びさせることを考えねばならない。

との考えで重慶の官邸にこもり、宋美齢と暖かいコーヒーを飲んで戦略を練っている。

中国历来政治高于人
(中国は歴史上政治が人民より上にくる。)


作者はこの事を別に非難するわけでなく淡々と描写する。

別に蒋介石は知らなかったわけではない。
報告はあがってます。
でも地方役人が税金を払いたくないために嘘を言っていると思ってたそうです。

ただこの時代もジャーナリズムがありますので
米国人ジャーナリストが世界に向けてこの餓死を報道する。
そこでやっと蒋介石も思い腰を上げ救済に乗り出す。

外国人救灾是出于作为人的同情心、基督教义,不是罗斯福、邱吉尔、
墨索里尼发怒后发的命令;中国没有同情心,没有宗教教义、
有的只是蒋的一个命令———这是中西方的又一区别。

外国人が救済活動をするのは人としての同情心であり、キリスト教の教義からであり、
ルーズベルトやチャーチル、ムッソリーニの怒りの命令からではない。
中国は同情心はなく、宗教教義もない、あるのはただ蒋介石の命令だけである。
これが西洋と中国の違いである。


歴史的に戦乱が絶えない人口大国においては人命なんてピーナッツほどのものか?
ヒトラーやルーズベルト、チャーチルからすれば
蒋介石なんてピーナッツだと著者は言っていますが
ということは人民はピーナッツの皮くらいの扱いですかね。

蒋介石の命令のもと救済が始まるのですが
そこがまた広大な中国。
なかなか被災民まで物資や援助金が届かない。
途中の地方役人が中抜きしてしまいます。

地方役人は被災認定される前まで、被災区においても重税を搾り取り
しかもその貴重な食料を転売して私財を蓄える不届きものの小役人もいたそうです。
いまも地方でそんな事件が報道されてますね。

ほんと一般人民なんてなんとも思われてない。
そこで翌年今度はイナゴの大群に襲われ、追い討ちをかけられるです。

でも全人民が餓死せず今日まで生き延びてこられたのはなぜか?
それは日本軍が征服してくれたからなんです。

日本发军粮的动机绝对是坏的,心不是好心,有战略意图,有政治阴谋,
为了收买民心,......,但他们救了我们的命

日本は軍隊の食糧を提供した動機は絶対に悪であり、良心からではない、
戦略的意図があり、政治的陰謀で,民心をたぶらかすために.......
しかし彼らは命を救ってくれた。


是宁肯饿死当中国鬼呢?还是不饿死当亡国奴呢?我们选择了后者。
むしろ餓死して中国の亡霊になるか?
それとも餓死せずに亡国の徒になるのか?
我々が選択したのは後者だった。


政治はなんのためにあるか?
国民の安全と生命を守ることが基本です。
食べさせてくれる統治者を望むのは当然でしょう。

短いけど思い文章でした。
ずいぶん引用しましたが本を読むと更に深い理解が得られると思いますので
一読をお勧めいたします。
飢餓の様子はあまりにむごいのでご紹介するのをためらうほどです。
ネットでよんでもいいですし。

以上
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by zhuangyuan | 2006-08-06 17:14 | 中国関連DVD、本 | Comments(4)
Commented by 便利屋 at 2006-08-07 21:41 x
 はじめまして、便利屋こと東亜連盟戦史研究所所長と申します。TB有難うございます。中国語の本を読めるとは素晴らしいですね。

  「私が思うに外国語の本を読むときは、さらっと流して読むわけにはいかず一字一句逃さずに、またわからないところは何度も繰り返し読むので、母国語の本を読むより、深い理解ができるのではないかと感じています」という貴方様の言葉に納得させられ感動させられました。
Commented by tianshu at 2006-08-08 02:03
私のブログへのコメントをありがとうございます。
劉さんの小説は語学の勉強にはとてもいいと思っています。

1942年の餓死事件は、私はちょっとだけどこかで読んだことがありますが、それほど酷かったとは思いませんでした。
死には、いろんな形がありますが、餓死というのは、一番人間らしくなく、一番愚かで惨い形だと思います。地球はこんなに豊かで美しいな星なのに。
チャンスが有れば私もこの小説を読んでみたいです。

ありがとうございます。
Commented by zhuangyuan at 2006-08-09 21:50
便利屋さま
コメントありがとうございます。
中国語の本を読むのは表現の勉強ですが、いまのところ面白い本にばかり当たっているので熱中してしまいます。ただ読むのがものすごく遅い。よってなかなか進まないため、日本語の本を読む時間が少なくなって困ります。
Commented by zhuangyuan at 2006-08-09 21:55
tianshuさま
この本の中で白人の宣教師が飢餓に苦しむ人たちを救う場面がありますが彼ら白人たちの動機は「至少,让他们像人一样死去。(せめて彼らを人間らしく死なせる。)」というものでした。想像を絶します。


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