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中華 状元への道

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2006年 05月 14日

詩人 毛沢東

岩波文庫「中国名詩選」をめくっていましたら最後の最後に毛沢東の詞がありました。
詩じゃなくて詞です。日本語だと同じ「シ」という音なので後者を「ツー」といいます。

以前北京で語学教師に毛沢東は詞の天才だという話を聞いたことがあり
気になっていました。
詞は詩と違って全ての句が同数ではなくいろんなパターンがあるそうです。
韻の踏み方も複雑な決まりがあってとても難しいそうです。

その本に載っていたものはとてもわかりやすく面白いのでご紹介します。
一九三六年二月に作られたものです。
沁园春《雪》

北国风光,
千里冰封,
万里雪飘。
望长城内外,
惟馀莽莽;
大河上下,
顿失滔滔。
山舞银蛇,
原驰蜡象,
欲与天公试比高。
须晴日,
看红妆素裹,
分外妖娆。


北国の風光は千里までく氷に閉ざされ
万里に雪が舞い
長城の内外を眺めれば
果てしなく広がっており
大河は全て
滔滔とした流れを失い
山には銀の蛇が舞うようであり
野原には蝋燭の象が駆けるようであり
天と高さを競っているようだ
晴れた日を待ち
紅く染められ白に包まれた様を見れば
あまりにも艶かしい。

江山如此多娇,
引无数英雄竟折腰。
惜秦皇汉武,
略输文采;
唐宗宋祖,
稍逊风骚。
一代天骄,
成吉思汉,
只识弯弓射大雕。
俱往矣,
数风流人物,
还看今朝。


国家の山河がかくも美しく
無数の英雄たちがその前に腰をかがめてきた
惜しいかな秦始皇帝や漢武帝は文才がなく
唐李世民や宋趙匡胤はいささか風流でない
一代の天の驕子チンギスハンは
ただ弓を引き絞って大鷲を射ることしか知らない
皆過去のことである
風流な人物を数えるとするなら
今の世を見よ


詩的センスのない私でも非常にわかりやすい。
広大な自然を躍動感もって描き、しかも悠久な歴史の変遷まで表現してしまう。
素晴らしいですね。

しかも1936ですからまだ長征の最中のことです。
今でこそ長征というと勇ましい響きですが
国民党軍から逃げ回ってただけです。
1949の中華人民共和国の成立まで10年以上前の時代です。
そんな時期に4000年の歴史の偉大なる英雄皇帝を卑下し
己と比べてしまうこの根性がすごい。
今の世を見よ!って「俺を見ろ!」ってことですよね。
完全に天下を狙ってます。というかもう天下が自分のものだと思ってる。

今日本では時期首相候補が何人かいますが
彼らの目標は吉田茂だったり岸伸介だったり福田赳夫だったり
あまりに卑近な目標でスケールが小さい。
誰か天智天皇とか後醍醐天皇が目標だとかいう奴はいないのか?
天皇がまずかったら藤原道長とか源頼朝とか。

毛沢東はこの長征の間、中国歴史を徹底研究してバージョンアップしたとのこと。
Mao 2.0って感じかな。
詩や詞も相当読んだんでしょう。

第二次大戦後、Mao 2.0が共産党トップとして蒋介石と和平交渉を行ったころ
この詞が世の中にも知られるようになったそうです。こちらを参照

そこで毛沢東の詞の才能に嫉妬した蒋介石は国民党随一の文人に
毛沢東の詞の評価を聞きました。それに答えて曰く、
“气度不凡,真有气吞山河如虎之感,是当今诗词中难得的精品啊!”
(非凡な風格があり、正に山河を呑みこむこと虎の如し、当代の詩詞では得がたい絶品です!)
と素直に答えました。

蒋介石は更に嫉妬心を深くしていまいました。

そこで蒋介石は屁理屈を考え、盛んに宣伝したそうです。
他的词有帝王思想,他想复古,想效法唐宗宋祖,称王称霸。
(彼の詞は帝王思想がある、彼は王制復古を願い、
唐宗宋祖を習い、王と名乗り覇を唱えようとしている。)

当時蒋介石は民衆からは相手にされず、結局毛沢東が勝ちました。

でも今から振り返ると
毛沢東の覇権主義を鋭く見抜いていたとも思えます。

以上

by zhuangyuan | 2006-05-14 15:53 | 文化、歴史


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