2006年 05月 13日

「シブミ」 上海193?年

シブミ〈上・下〉
トレヴェニアン Trevanian 菊池 光 / 早川書房
読了。

ミュンヘン・オリンピックのイスラエル選手殺害に報復するグループとその報復を阻止しようとする
CIAと石油利権を代表するマザーカンパニー。
そして生き残ったイスラエルテロリストが助けを求める主人公の謎の暗殺者ニコライ。
彼らが複雑に絡み合う冒険小説です。

じゃあなんでここで紹介するわけ?って声が聞こえそうですが
この暗殺者ニコライはロシア語、ドイツ語、英語、フランス語、中国語、日本語、バスク語などを
操れる国籍不詳者なんですが心は日本人なんです。なんかゴルゴを思い出します。
そして、その日本との出会いは戦時中の上海なのです。
彼が少年時代に当時上海を占領していた日本陸軍の将軍と一緒に暮らすことで
日本に感化されてゆくのです。ここで中国が出てくるわけです。

内容はさておき、なぜこの本を手に取ったのか?

こうした冒険物は当たり外れが多いので自分から何も知らずに買うことは
めったにありません。

この「シブミ」(渋み)というわけのわからない題名は
なんか西洋人が日本の伝統をデフォルメして勘違いしたゲテモノ小説チックな響きがあります。
フジヤマ、ゲイシャ、ハラキリなんてアクセントを強調して読むような
不思議の国ジャポンみたいな、太った白人が化粧して着物着たような違和感を感じる。
ですから本屋で見つけても買わなかったでしょう。

実はこの小説わが社の社長から紹介されたのです。
先日、」社長と天皇家の相続についてはなしていて、
天智天皇がどうの、神武がどうのという流れで
日本とは?という話に転じ
そのうち外国人(西洋人)でも日本を愛し、日本に対する知識が恐ろしく深い知日家がいるという
ネタになりました。

そこでこの「シブミ」が登場。社長は偶然本屋で買ったらしいのですが
そこからこの小説についての話が始まりました。

ミュンヘン五輪から始まり、石油利権、上海の日本軍、戦後の日本での暮らし、軍事裁判、バスクでの暮らしなどなど、ほとんど全ストーリーを語ってしまった。
私は、上海の日本軍との話にビビッと来て是非読んでみたいと思いました。
そこで「私も買って読みますからストーリーは話さないでください。」などと
社長の話の腰を折るこのなど一介の末端社員には出来ず、
とうとう終わりまで行ってしまいました。その間、およそ45分。

ただ私の興味は潰えず、これだけ語るからには相当面白いのだろうと思い、
早速買って読みました。

 で、内容はといいますと期待に違わず読みでのある内容ぎっしりの深みのある小説でした。

その上海での日本軍ですがニコライが一緒に暮らす、岸川将軍は特務部長でした。
現代中国の歴史評価からすると上海の特務長なんていったら暴虐の限りをつくす
悪の権化のような存在でしょう。

しかし、このアメリカ人小説家の描く、岸川将軍は「国家の品格」を自でゆくような人格者なのです。彼のシブミに感動したニコライは生涯「シブミ」の追求を人生の目標としました。

では彼らの暮らした当時の上海とはどんなところか?
傲慢な若い新米ヨーロッパ人が痩せこけた少年のような中国人が
引く人力車の上でふんぞり返っている。
中略
外国の商館に雇われている脂肪のかたまりのように太った買弁が
ヨーロッパ人が自分の国の人間を搾取するのを利用して金を儲け、
西欧風の生活様式や倫理を猿真似している。(P96)


そしてこんな上海に新しい支配者として日本軍が入って来る。
外国資本家は自らの利権を守るべく日中両国軍へ市街地でも戦闘を避けるよう
依頼したが、国民党軍は利権のある外国の介入を誘って、
アメリカ製の戦闘機ノースロップで意図的に市街地を繰り返し誤爆し街を破壊した。
ここでも民衆の犠牲を屁とも思わない蒋介石軍の登場。

その後は日本軍が国民党軍を駆逐した。

将軍のたゆまざる努力によって、上海の街は次第に復旧しはじめた。
公共工事が回復し、工場は修理され、中国人農民がもどりはじめた。
通りの活気と騒音がよみがえって、ときおり笑い声が聞こえるようになった。
中略
中国人労働者の生活状態がヨーロッパ人の支配化にあった頃よりよくなった
ことは確かである。(P106)


繰り返しますがこの小説を書いたのは日本人ではありません。
アメリカ人です。第二次大戦の敵国でしかも蒋介石をバックアップしていたアメリカの国民です。なんとありがたい。

この小説家の知日ぶりはほんとにすごい。
上海の後、主人公は日本で暮らすのですがこのでも桜の描写なんかも
日本人以上に詩的な文章を書きます。もちろん原書は英語ですけど。
ぜひ読んでみてください。

日本ではこれまたシブミのある囲碁の名人に師事するのですが囲碁のことなんかは
私もチンプンカンプン(听不懂,看不懂)です。恐れ入ります。

この小説、暗殺者の冒険ものですが
作者の文化文明批評の書として読んだほうが面白いと思います。
おすすめです。

ニコライ、最後は日本人女性といっしょにバスクに暮らすんですよ。
石油利権にパレスチナ、日本にバスク。
小説家の創造力っていうのは想像を絶しますね。
バスク人はネアンデルラール人だなんて新説というかジョーク?も登場します。
バスクも知ってみたいなあ。

最後にこの小説は1979に書かれたことを知りびっくり
全然古く感じません。

以上
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by zhuangyuan | 2006-05-13 18:32 | 中国関連DVD、本 | Comments(0)


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