中華 状元への道

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2006年 03月 28日

「朱夏」 

宮尾登美子「朱夏」(新潮文庫)

昨年、貧困と人身売買という記事を書いた際に、dashi様よりご紹介いただいたものです。

作者が18歳で教師の妻として子連れで満州に渡り、
敗戦後20歳で引き揚げて来るまでを描いた凄まじい小説です。

私の祖母も20代前半で軍人の妻として満州にわたり、ソ満国境で暮らし
敗戦間近の時に私の母を身ごもったまま単身帰国してきました。
そんな背景がありますのでかなり感情移入して読みました。

作者は実家が芸妓娼妓紹介業という裕福ながら
人目はばかる家庭に育ち、何不自由なく、わがままに育つ。
父への反発もあり教師と結婚し満州へ。

夢の大地を求めた開拓民としての生活は楽ではなく、共同生活にも苦労しつつ貧乏が続く。
敗戦の少し前から人気の少ない大地の雰囲気が変化してくる。
御用聞きなどをしていた満人の様子がおかしくなり、
周りの日本人を見る目も変わってくる。

戦況の悪化の断片的な情報は入りつつも
皇国2600年不敗の歴史を純粋に信じる。

そこでまさかの敗戦。全てがひっくり返る。
ファンゴール、ファンゴール(おそらく翻过儿fanguor)と満人の群集が叫びつつ、
周りを取り囲み略奪を進める。

軍隊の後ろ盾を失った移民たちは一瞬で命の危険にさらされる難民生活へ。
ソ連軍の侵攻が伝えられると移民たち全員に青酸カリが配られる。

そこからは飢えとの戦い。犬がくわえている肉切れを奪い合ったり
食べ物ほしさに子供を売ることを考えたり、とにかく飽食の時代に生まれた自分には
想像もつかない状況です。

夫たち教師もついこの間まで満人を使役していた
炭鉱で明け方まで煤まみれで足まで水に浸かりながら使役に従事する。
支配関係が一瞬で逆転する。
栄養不足で病気も蔓延する。

でもそんな中、女は強いのです。
常に子供をおぶい主人公は苦しい中でも生きる糧を見つけて懸命にあがいてゆく。
とにかく生きるんだと。
飢えと道徳心との内心の葛藤があまりにも赤裸々で凄まじい。

この小説の全編で今は忘れられている
日本伝統社会の男女差別、社会階層格差、移民と満州人の関係
難民共同体の軋轢、人間の弱さ、強さ,いやらしさ、社会の矛盾、
どうしようもない運命の流れ、中国語なら无可奈何、こんなものが次々炙り出されてきます。
とにかくすごい小説でした。

dashiさまご紹介ありがとうございました。

中国の方にも是非読んでもらいたい小説です。
当時満州には軍人だけでなく
一般人の普通の暮らしもあったんだというあたりまえのことがわかり、
また当時の日本の社会状況などがわかって面白いと思います。

以上
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by zhuangyuan | 2006-03-28 21:51 | 中国関連DVD、本 | Comments(4)
Commented by wpz2007 at 2006-03-30 00:58
うん。。。なんか。。読んでみたくなりました。。。
探してみます。。。
Commented by zhuangyuan at 2006-03-30 22:31
wpz2007さま
是非読んでみてください。この本のすごいのは悲壮な生活を語っていながら暗くないんです。主人公の強さ、逞しさの底流には明るい楽観が流れています。
Commented by tianshu at 2006-03-31 23:54
こんにちは!
私は今読んでいるのは、
岡本英弘の「この厄介な国ーー中国」
BOOKOOFで手に入れました。けっこう面白い本です。

今度チャンスがあれば「朱夏」も読んでみたいです。
Commented by zhuangyuan at 2006-04-01 06:50
tianshuさま
私も以前「この厄介な国ーー中国」読みました。岡田英弘さんの本は歴史知識に基づいたものなので奥が深いと思います。「皇帝たちの中国」(原書房)もおすすめです。中国皇帝は総合商社の社長のようなものだそうです。


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