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中華 状元への道

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2018年 11月 11日

映画「十年」のリアル日本

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香港で大ヒットした映画「十年」徐々に大陸中国に取り込まれてゆく香港の十年後を描いた作品だった。この映画の日本版が公開された。是枝裕和監督がプロデュースして5人の若手監督がそれぞれのテーマで短編を作った。

香港ではイギリスから中国への返還があり強大な中国共産党が統治する体制と現政治制度の基本的相違が存在する。その状況下での十年となると悲観的な未来像が容易に想像できる。ところが日本は体制は変わりそうにないし、人口構成は変わるが、十年というとすぐそこのような気がして、日本版が作品としてリアリティを保てるのかと疑問を持った。

ちなみに香港版のテーマはこんな感じ。

国家安全条例制定
歴史の破壊と保存
消えゆく広東語
独立運動と焼身自殺
言葉狩り

以前ブログに書きました。

言語好きとしては言語統制による支配政策が特に興味深かった。広東語と結びついた歴史と文化を中央に画一化することで効率よく政策実行できる。

日本版のテーマはこれだ。
高齢化と安楽死
データ遺産
教育と監視
核汚染と地下生活 
徴兵制

鑑賞前の心配は当たらず、どれもキレ味があり、現実味が迫って身につまされる。

初め作品PLAN75の世界では75歳で安楽死を選べる法律ができている。

こんなエピソードを思い出した。

父と同年齢である私の友人は数年前に突然死した。ベッドで本を読んだ姿のまま起きて来なかった。2日後に私と食事の約束があったのに。彼は生前言っていた。「母ちゃんボケちゃって、旦那のオレが見舞いに行ってもな、オレは毎日初めて会う人なんだよ。施設のカネも払えなくなるからあと5年で一緒に死のうってあいつに言ってんだ。向こうには通じてないけどね」そんな彼が先に逝った。

「いたずら同盟」で描かれるのは、将来の成功に向けて効率よく勉学に励むべく小学生たち。ソフトウェアに管理され、AIに監視されている。約束された将来のために無駄なことはさせない。外れた行動をすればヘッドセットから戒めの声。挙句はオートパニッシュメント。

この作品も受験生を子に持つ親として他人ごとでない。今の東京では都立高校入試は内申重視。主要5科目以外の4科目に倍の配点があり、各科目は細かく評価ポンイントが分かれ、関心、意欲、態度に重点が置かれる。筆記テストの点以外がより重要。成績をつける側の主観で配点される。要は従順な組織人候補が加点される。古い。映画の主題と重なるが、大きな背景のもと教育目標が決められ、それに応じた評価システムが組まれる。そのシステムも数値化できない部分は主観に委ねれれる。大組織の効率化で勝てた成長時代はとっくに終わっている。この作品でも目標に向けた無駄のない効率化した行動を促される。どこかの誰かが正しいと決めた目標に向かってね。

徴兵制の世界を描いた「美しい国」では若い広告代理店営業マンとベテラン女性ポスターデザイナーの関わりが物語の主軸だ。木野花演じるはちゃめちゃなデザイナーの部屋には父親の軍服姿の写真がある。

昨年亡くなった祖母の枕元には戦死した祖父の写真があった。軍人として満州にいて帰国した赴任先が広島。そこで世界の実験台にされた。弱冠23歳。私よりずっと若い祖父は私にそっくりなのだ。祖母は戦争の話は自分からはしない。ただいつも前向きで僕らを励ましてくれた彼女がアメリカのことはひどく憎んでいてアメリカの食べ物は一切食べなかったと死後に聞いた。リアルに戦争を体験した最後の世代が消えてゆく。「美しい国」記憶と乖離した絵空事のような響きが怖い。

どの作品も自分の過去と未来を想起させる現実感の伴ったものだった。いい作品を観ると脳が刺激され沢山の記憶がつながりイマジネーションが湧いてくる。

物語の肝には触れてませんので皆様作品をお楽しみください。

以上


by zhuangyuan | 2018-11-11 21:09 | 映画


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