2017年 08月 13日
「真ん中の子どもたち」温又柔著 ミックス言語ワールドで生きる留学生の葛藤を描く。言語好きにはたまらない物語です。 主人公のミーミーこと天原琴子は留学先で「てぃえんゆぇん」と呼ばれる。天原を普通語読みしてTianyuan。 アルファベットで書いてもローマ字読みとは異なり、中国語のピンインではティエン ユエンと読む。 この琴子は日本育ちの台湾人とのハーフであるゆえに自分のルーツと言葉の浮遊感に揺れている。そして揺れ続ける。 ピンインをあえて平仮名で書くところにすでにもどかしさを込められているのかな。 私は伊藤なので中国ではイートンyitengと呼ばれます。はじめ違和感を感じました。 オレにはイトウという苗字がある。音もセットで自分がある。 でもねよく考えたら毛沢東はモウタクトウだし、鄧小平はトウショウヘイって呼んでる。 中国語は漢字が表意文字として中心に鎮座してるので音は後からついてくる。 琴子の友人、龍舜哉は帰化日本人ですが屈託がない。 祖父が帰化するときに劉を日本語で同音というだけで龍に変えた。いさぎよい選択。 舜哉は自分をはっきりと日本人だといいきる。 その彼が言う。 「中国って大きい。これだけ大きければ、おれみたいな中国人がいてもおかしくないんちゃうん?」 まさにここが中国との日本の違い。中国はでかいんです。 私の好きな中国のことわざでこう言います。 林子大了什么鸟都有。 中国は言葉に対する許容範囲が広い。 普通語が幅をきかせる今日でも、地方出身者が訛りの強い言葉で卑屈になることなく大きな声で堂々と喋っています。 私のヘタクソな中国語だって受け入れられます。 ところが日本だと正しい日本語ってのが出てくる。それが一段上にあるという感じが常につきまとう。 先日読んだ本によると沖縄の訛り矯正のため、 教室で方言をしゃべった生徒には方言札という札を胸に下げさせたそうです。 中国も毛沢東主導のもと効率化のため言語統一が図られます。 ピンインが導入され、教育は普通語でなされ、アナウンサーは普通語で話します。 ほとんどのテレビ放送に普通語の字幕がつきます。 そんな状況からでしょうか、中国語がうまいことを褒めるとき、「とても標準的ですね」と言います。 「你的中文很标准」私もよく言われます。学校で習ったものですから。 でもなんか褒められた気がしない。生きた言葉じゃないって感じ。 琴子の先生である陳老師も正しい発音を厳しく指導します。 適切な指導を行う努力を惜しまない。でもこれは任務なのです。 文化からではなく、政治に基づいた任務。ここは老師は譲れない。 でも中国社会は外のものを受け入れる許容を持っていると思います。言語もしかり。 古代から異民族と混じりあって時の為政者に表面上は合わせながら自らの寄って立つところを失わずに生きてきた。 だから自分の言語ワールドを捨てないし卑下もしない。 中国人という一言で片付けられないし、線引きできない。中国には多民族が集まってる。 漢族が中心と言われますが、漢族の定義なんてあいまいです。 混じりあった末にそこに居ついた人々くらいなものです。 威張ってる北京人、上海人も同じ。数代前にそこにきただけ。 でもそこに根ざした言葉を喋ってる。 そこでは普通語と方言のミックス感が自然なんですよね。 なんの途切れもなくいつのまのにか土地の言葉が混じってくる。 これは台湾も同じ。ビジネスでは國語と呼ばれる共通語が話されますが本省人がいるといつのまのにか台湾語になってる。これは主人公琴子の家庭の言語空間と一緒です。線が引けない。言語カオス。 中国でも台湾でも時の政権と社会は必ずしも同一ではないんです。 私も短い間北京にいましたが一見すると画一化されたように見えますが、その実、自由な混沌があるんです。 華僑の国シンガポールなんかはさらに複雑です。 普通語、広東語、福建語、潮州語、海南語....ついでに英語。みんなごちゃまぜで話して通じ合ってる。 どれが正しいなんてのはない。これが日常なんです。 こんな世界にいるとあっちとこっちの間に線を引くことに意味がないしそもそも引けない。 あっけらかんと自分の言葉を喋ってる。そこでは国家なんてのは仕組みでしかない。 この状況って中華圏だけじゃない。アメリカだって同じ。 ロスでもヒューストンでも空港で聞こえてくるのはスペイン語です。 でもこちらと話すときは英語。下手くそでも自然です。 グロービッシュ。 世界のみんながこれを話してる。 日本人以外は恥ずかしがらずに。 これが日本においては、国家と歴史と民族、言語が地理条件と一致して統合されているように思えてしまう。 幻想に過ぎないのに。グローバル化の進行でこの幻想も揺らいできた。 そしてこれからますますあいまいになってゆく。多様性が増してゆく。 あいまいになるとこれまでのステレオタイプの価値観が通じなくなり不安になる人々がいる。 世界が動いて多様化しているのに隣近所の異質な存在にしか目が行かなくなり、 機能しなくなった単一幻想をますます偏狭にしてすがってゆく。 そこでは無根拠な排除が行われる。排除していることすら罪悪感をいだかなくなるかもしれない。 刊行記念講演で著書の温又柔さんはこうおっしゃっていた。 そんな世界に生きる子供たちが、異質であるゆえに狭間に追いやられることがあるならば、
by zhuangyuan
| 2017-08-13 21:10
| 言葉
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